化学実験(1年前期)
例年、「なぜ生命科学科の最初の実験が化学実験なのか?」という質問を耳にします。
いい質問だと思います。
生き物と金属イオンの関係に興味を持った人は、ぜひ次の本を読んでみてください。

飯田は、読み物としては左が面白いと感じましたが、こちらは絶版です。
読みたい人は図書館で探すか、飯田に声をかけてください。
右はまだ手に入るはず。
| 「このように、金属タンパク質や金属酵素の中の「金属元素」は、多様な化学反応の中心的役制を果たしている。つまり、生体反応を制御していると理解される。この意味では、たとえていえば、金属元素はオーケストラの指揮者や、野球やサッカーの監督の役割によく似ている。」(『金属は人体になぜ必要か』51ページより)) |
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金属イオンの小話
銀イオン(Ag+)
銀イオンは水に溶けやすく、速やかに体外に排出されるので人体への毒性はほとんどないと言われています。
銀イオンを必須とするタンパク質もないです(飯田の知る限りでは)。
参考文献(英語)
Michael Walker and David Parsons. 2014 Int Wound J.
The biological fate of silver ions following the use of silver-containing wound care products - a review.
(訳; 銀含有創傷治療製品の使用後の銀イオンの生体内運命 ― レビュー )
[文献から作成したインフォグラフィック]

鉛イオン(Pb2+)
鉛イオン自身はタンパク質に利用されることはないですが、
生体における必須金属であるカルシウムや亜鉛と大きさや性質が似ており、これらの代わりにタンパク質に結合することで強い毒性が生じます。
以下の文献では鉛の毒性の標的を23種類のタンパク質に絞り込んで、これを紹介しています。
参考文献(英語)
de Souza ID et al. 2018 Crit Rev Toxicol.
Lead-interacting proteins and their implication in lead poisoning.
(訳; 鉛と相互作用するタンパク質と鉛中毒におけるその役割)
[文献から作成したインフォグラフィック]

銅イオン(Cu2+)
銅イオンは生体にとってとても重要なイオンです。
特にミトコンドリア・呼吸鎖複合体の複合体IVではヘム鉄・銅イオンが電子伝達系の中心を構成しています。
参考文献(英語)
Zheng W et al. 2024 Nature
High-resolution in situ structures of mammalian respiratory supercomplexes.
(訳; 哺乳類の呼吸スーパーコンプレックスの高解像度生体内構造)
[文献から作成したインフォグラフィック]

他にも、体内で活性酸素除去を行うスーパーオキシドジスムターゼの中心に配置されています。
鉄イオン(Fe2+ / Fe3+)
鉄イオンも生体にとってとても重要なイオンです。
赤血球に含まれるヘモグロビンにはヘム鉄の形で含まれており、酸素結合の中心を担います。
ちなみに、脊椎動物のヘモグロビンは4量体を形成しており、1つのヘムに酸素分子が結合すると、全体が構造変化を起こして
他のヘムにも酸素分子が結合しやすくなります。
ぜひリンク先でこの構造変化を見てみてください。
参考文献
PDBj 今月の分子41 ヘモグロビン
[webページから作成したインフォグラフィック]

アルミニウムイオン(Al3+)
アルミニウムイオンを必須成分とするタンパク質は見つかっていません。
アルミニウムイオンは酸素原子を含む分子に強く結合する一方で、酸化還元反応に乏しく、生体反応の制御には使いにくいと考えられています。
また日常生活では問題になりませんが、なんらかのトラブルでアルミニウムイオンを大量に摂取してしまうと神経毒性が生じることがわかっています。
参考文献(英語)
Yokel RA. 2000 Neurotoxicology
The Toxicology of Aluminum in the Brain: A Review
(訳; 脳内におけるアルミニウムの毒性:レビュー)
[文献から作成したインフォグラフィック]

毒性については、以下のページをご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuten/aluminium/index.html
亜鉛イオン(Zn2+)
亜鉛イオンはいくつかのタンパク質にとって非常に重要なイオンです。
ヒトゲノムにコードされる約2万種類のタンパク質のうち、3200個(約15%)が亜鉛イオンに結合すると推定されています。
特に亜鉛フィンガー(ジンクフィンガー)と呼ばれる構造が、複数のDNA結合タンパク質においてみられ、転写制御に必須の役割を持ちます。
参考文献
Laity JH et al. 2001 Curr Opin Struct Biol.
Zinc finger proteins: new insights into structural and functional diversity
(訳; 亜鉛フィンガータンパク質:構造的および機能的多様性に関する新たな知見)
[webページから作成したインフォグラフィック]

ニッケルイオン(Ni+ / Ni2+ / Ni3+)
ヒトのタンパク質の中にはニッケルイオンを必須とするものはないと言われていますが、
自然界に目を向けると、ニッケルイオンの重要度は高いです。
古細菌の持つメタンを生成、または分解する酵素であるメチル補酵素M還元酵素(MCR)の中心を構成します。
メタン生成を通じて、現在の地球環境にも大きな影響を与えていると考えられています。
参考文献
Thauer RK. 2019 Biochemistry.
Methyl (Alkyl)-Coenzyme M Reductases: Nickel F-430-Containing Enzymes Involved in Anaerobic Methane Formation and in Anaerobic Oxidation of Methane or of Short Chain Alkanes
(訳; メチル(アルキル)-補酵素M還元酵素:嫌気性メタン生成およびメタンまたは短鎖アルカンの嫌気性酸化に関与するニッケルF-430含有酵素)
[webページから作成したインフォグラフィック]

1年生の化学実験で扱う金属イオンは以上です。
他にも生体内で重要であることがわかっているのは、マンガン、モリブデン、コバルトなどがあります。
主に電解質を構成するイオンまで含めると、もちろん、Na+, K+, Ca2+, Mg2+などもとても重要ですね。
このページの記事はここまでとします。
皆さん、頑張って化学実験の単位を取得してください!
(2026年、飯田)