研究内容

【概要】

多くの動物は、同種の複数個体で社会を形成しています。このような社会性動物が示すさまざまな行動は、個体間における重要なコミュニケーションツールです。たとえば動物は他個体と遭遇すると、仲間に受け入れるか、無関心を装うか、攻撃するか、逃避するかなど、個体や環境の状況に応じてさまざまな行動を選択します。また、遭遇した他個体を記憶・識別して、再び遭遇した際に同じ行動をとるか、異なる行動をとるかを選択します。群れで生息する動物は、このような行動選択を繰り返しながら、絶妙にバランスのとれた個体関係や社会を形成・維持しています。

これらの社会性行動を選択して実行するまでに、脳のなかではどのような神経回路が行動制御や情動応答にはたらくのでしょうか?この謎を解明するために、私たちは主に次の4つの研究プロジェクトを進めています。研究対象には社会性行動や脳の観察が比較的容易で、分子遺伝学的手法が整備されているメダカを用いています。

1)社会性行動の制御における神経ペプチドの機能解明

2)社会環境の変化が魚類の情動と神経活動に及ぼす影響

3)Risk-taking行動を調節する脳内機構の解明

4)個体認知と学習記憶にはたらく脳内機構の解明

5)発育に伴う神経ネットワーク構築と社会性行動発達との関連性

研究では、おもに脳でつくられる神経ペプチドやモノアミンに関連する遺伝子に着目しています。これらの遺伝子の多くは、ヒトをはじめとする多くの脊椎動物に共通して存在します。脳内の遺伝子発現が個体関係や社会環境の変化に適応した行動や情動の調節にどのように機能するのかを調べることで、行動・情動・脳の応答が魚類と哺乳類でそれぞれ特有のものか、それとも共通したものかを解明したいと考えています。

【キーワード】

群れ形成、個体認知、社会性行動、Risk-taking行動、学習記憶、情動応答、脳、神経ペプチド、ステロイドホルモン、モノアミン、脳内オピオイド、各種受容体、遺伝子発現解析(in situ hybridization、real-time PCR)、免疫組織化学、EIA、遺伝子組換え、ゲノム編集

【主な研究テーマ】

・社会性行動の制御におけるVasotocinニューロンの機能解析

大胆または慎重行動の選択にはたらく神経ネットワークの解明

・社会環境の変化が群れ行動や情動応答に及ぼす影響

・魚類の空間学習記憶にはたらく神経ペプチドの機能解析

・発育に伴う社会性行動関連神経ネットワークの発達

© Nao KAGAWA 2024