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研究テーマ

生体は細胞から成り立っていますが、これらの細胞は一つ一つが独立して働いているのではなく、お互いがコミュニケーションを取ってそれぞれの役割を果たしています。その結果が生体の反応や行動として現れているのです。このような細胞同士の連絡を取り合う物質は、細胞間情報伝達物質または細胞間メディエーターなどと呼ばれます。また、受け手の細胞には受容体と呼ばれる分子が存在しており、細胞の中に信号を伝えます。正常時には、適切なメディエーターが適切な時期に、適切な場所で、適切な期間だけ働いているのですが、この適切さが何らかの理由で破綻すると病気になったり、異常が現れるのです。私たちは、このようなメディエーターとその受容体の働きについて研究をしています。具体的には、以下の3つのテーマとなります。こちらも参考に。
 
1)リゾホスファチジン酸(LPA)シグナル
    a)神経発達とLPA
    b)細胞成長とLPA
    c)生物進化における脂質シグナル
2)脂肪酸シグナル
3)化学物質の細胞機能への影響評価
 
1)-a),b) リゾホスファチジン酸(LPA)シグナル(辻内研との共同研究)
 脂質は生体内において3つの役割があります。一つめはエネルギー源として、二つめは細胞膜の構成成分として、三つめは細胞間の情報伝達を担う物質として働いています。また脂質はその構造からいくつかの種類に分類されますが、中でもリゾリン脂質類に属するものは、近年、細胞間の情報伝達物質として重要な役割を果たしていることが報告されるようになって来ました。私たちが研究しているリゾホスファチジン酸(Lysophosphatidic acid/LPA)もそのうちの一つで、これまで神経の発達やがんの成長、受精卵の着床、神経性疼痛、肺繊維症の発症など様々な生理・病態に関与していることが知られています。しかしながらその詳細はいまだに不明なことや知られていないことも多く、解明が待たれています。
 私たちはこのLPAの役割を明らかにするため、LPAの受け手であるLPA受容体の働きについて調べています。LPA受容体は現在6種類の仲間(LPA1~LPA6)がいることが知られています。そのうち主としてLPA1およびLPA3の働きを神経細胞やがん細胞を用いて研究してきました。
 これまでの研究から、
・LPA1が神経細胞の誕生やグリア細胞の増殖に重要であること
・LPA3が神経細胞の突起の枝分かれに重要であること
・LPA1の情報伝達異常や遺伝子変異ががん化あるいはがん成長に関わっていること
などを明らかにしてきました。
 引き続いて、LPA受容体およびその変異体の情報伝達機構解明を目指しています。
 
1)-c)生物進化と脂質シグナル(加川研との共同研究)
 脂質メディエーターシグナルを構成する分子は、ヒトから魚類までは非常によく保存されています。また、原始的な脊椎動物に近いとされるヤツメウナギでもいくつかのサブタイプが保存されています。さらに、進化的に古い生物をみてみると、脊椎動物の先祖に近縁とされる脊索動物においては限られた種類のオルソログ様分子が見られるものの、ショウジョウバエや線虫では存在していません。このようなことから、脂質シグナルは脊椎動物進化の過程において出現し多様な機能を獲得するようになったと考えられますが、その詳細は明らかではありません。そこで、脊索動物であるカタユウレイボヤの脂質受容体や合成酵素オルソログとみられる遺伝子を単離し、機能を解析しています。さらに、ヤツメウナギからも同様のオルソログを単離して、機能解析を進めています。このような研究から、脊椎動物進化に果たした脂質シグナルの役割の一端が明らかになると期待されます。
 
2)脂肪酸シグナル(辻内研との共同研究)
 脂肪酸は炭化水素鎖の長さや不飽和度により多様性を持っています。このような脂肪酸は、細胞のエネルギー産生や細胞膜の流動性に関与することが知られていましたが、近年、LPAのように細胞間情報伝達物質としても働いていることが相次いで報告されるようになりました。私たちもLPAの研究を進めていく過程で、LPAを分解する新たな細胞膜酵素を見つけました。また、その酵素の働きにより産生された脂肪酸が卵巣がん細胞の成長に積極的に関わっていることを見出しました。現在、どのように脂肪酸が作用するのかを調べており、
・長鎖不飽和脂肪酸がある種のがん細胞に細胞死を引き起こすこと
・オリーブオイルに多く含まれるオレイン酸がある種のがん細胞の増殖を促進すること
などを見いだしてきました。現在、これら脂肪酸の作用機序を解明しています。将来的に適切な脂質摂取が医療(疾患の治療や予防)に結びつく「健康医学」の基礎を作り上げることを目指しています。
 
3)化学物質が細胞機能に及ぼす影響影響
 内分泌撹乱物質は、いわゆる環境ホルモンと呼ばれている物質であり、体内において性ホルモンの働きに影響を及ぼし、生殖器官の機能異常を引き起こすと考えられています。最近では、脳神経系を含む種々の器官に対しても、予想されていたよりも低い濃度で作用しているのではないかと疑われています。しかしながら、どのように作用しているのか、どのような影響が現れるのかについては、まだ不明な事が多いのが現状です。私たちは、代表的な内分泌撹乱物質であるビスフェノールを曝露した培養細胞の機能を調べることにより、この問題にアプローチしてきました。最近、これらの物質で長期曝露した細胞のストレス抵抗性が亢進することを報告しました。また、神経系の細胞を用いた実験から、これら物質の長期曝露が神経分化に影響することも見出しました。
 最近、神経細胞において、抗がん剤などの化学物質が誘発したDNA損傷が誘発されるメカニズムを調べ、従来の機構とは異なる仕組みを利用してDNA損傷が生じていることを見いだしました。
 https://www.kindai.ac.jp/science-engineering/education/teachers/detail/04_fukushima_nobuyuki.htmlshapeimage_2_link_0